2021/03/09

5年ほど前までは、派手な花が好きだった。 バラやラナンキュラス、ガーベラのような、一本で主役になれる花。 でも今は、「お花屋さんで買ってきた」というより、 「野原で摘んできた」というような趣の花のほうに好みが傾いている。 たとえばセツブンソウ、…

2021/03/04

「移動すること」が苦手で、それはおおかた乗り物酔いをするせいだ。 自家用車、バイク、バス、電車、飛行機、そして船。 身近にある乗り物のおよそすべてに酔う体質で、 しかも一度酔ってしまうと、乗り物から降りてもその日じゅうはずっと気分が悪い。 酔…

2021/03/01

道を覚える、ということがどうにも苦手で、 一度行った場所に二度と辿り着けないことがよくある。 たいてい、ひとりで歩いているときに偶然見つけた場所で、 記憶を共有する証人がいないものだから、 時間が経つにつれて、本当にあった場所なのかどうかすら…

2021/02/24

ここ数日、20度超えの暖かい日がつづいた。 まだ2月だというのに。 なんだか、太陽と月とが同時に出たような、 夜に真昼みたいな光に照らされているような、 どこか落ち着かなくて、後ろめたいような気持ち。 きょうになってようやくこの時期らしい気温に戻…

2021/02/17

ねえ、大きくなったら何になりたい? こどものころ、幾度かそんな問いを投げかけられた。 この国で「成人」とされる年齢を超えて久しい今、 その問いを投げかけられることは、とんと無くなった。 では、成人という区切りを迎えた後は、もう「大きく」なれな…

2021/02/10

いま私が修復している、海の見える小さな家では、 「紅茶の間」と「緑茶の間」をつくろうと思っている。 家の中の場所に名前をつけるとき、 「〇〇をするための場所」ではなくて「〇〇のある場所」となるように名付けたい。 DO定義でなくて、BE定義。 前者の…

2020/10/25

高畑勲さんが生前、インタビューの中で 「東京の街がいつまでたっても美しくならないのは、 東京を美しく描く画家がいないからだ」 といった趣旨のことを言っていた。 画家が描き出す街。 それはもちろん、現実の街に似てはいるけれど、 普段私たちの目に映…

2020/10/22

見た瞬間に心が反応する絵、というものがある。 たとえば美術館の片隅で、 たとえばたまたま手に取った画集をぱっと開いたその瞬間に、目が合う絵。 でもそれは、よくよく分析してみると、 なつかしさ、つまり記憶に結びついているものだったり、 好みのモチ…

2020/10/21

何度でも読みたい小説、というものがある。 間をおいて読み返すにせよ、何度も繰り返し読んでいるから、 当然筋は頭に入っている、結末もわかっている。それでも何度でも読む。 それはひとえに、その本の中の世界に遊びたいからだ。 こういう考えは、いわゆ…

2020/10/20

御前は果たして美しさのために死ねるかと、 日々問われているような、そんな心持ちがする昨今である。 追えば追うほど何処にあるのか皆目検討もつかなくなり、 いままでやってきたことすべてが無駄、むしろ逆方向に走ってきたように思え、 絶望してごろりと…

2020/10/12

ここに書かなかった間の日々は、いったいどこへ行ったのか? 私はたしかに、ひと月ぶんのパンとミルクティを消費して、 半月ぶん、いつもの眩暈に悩まされ、 月は欠け、満ち、そしてまた欠けた。 一体これらの日々はなんだったのか? そしてこれからも続いて…

2020/09/16

起きぬけに、ミントミルクティを淹れる。 風変りだけれど優しい味は、昨夜読んでいた作品の余韻。 作品の中の世界と、自分のいる世界とを結びつけるのが好きだ。 たとえば、ホットチョコレートを飲むときは、 エンデ『モモ』のあの朝食の場面を読み返すし、 …

2020/09/13

最初の記憶は何ですか。 そんな質問を受けて、ふと考えこんでしまう。 最初の記憶。 そう言われて思い浮かぶのは、 当時住んでいた家の門前道路で、ひたすらぐるぐる回っている私。 どうにも奇妙な記憶で、 今後幾度も自分はこの一瞬を思い出すだろう、 など…

2020/09/10

ようやく暑さがやわらいで、夜風がすずしい日が続くようになった。 季節が刻一刻と目の前で移り変わっていくとき、 いつもよりすこし、自分の身の周りのことを意識する。 数歩先の未来や、置いてきた過去のことではなくて、 いま、ここ。 今日は食器棚を整理…

2020/09/08

こどものころ、 「今わからないことも、きっと大人になったら全部わかる」 と思い込んでいた。 当時は、自分の外側に、大きくて絶対的な「正解」があるのだと思っていて、 大人を、そういう「正解」を知っている存在と見做していた。 うん、全員が知っている…

2020/09/07

あのころのことに、ふと思いを馳せる。 窓ガラスにおでこと鼻をぴったりくっつけて、外を覗いた初雪の朝のこと。 庭に出したビニールプールで、犬と一緒にはしゃいだ夏の午後のこと。 漬け込みに一晩、焼き上げるのに数時間かかるチキンを一瞬でたいらげてし…

2020/09/01

「お客様は、いつだって突然やってくる。 だから、いつやってきても問題ないようにしておくのが、 あるべき暮らしというものでしょう?」 (江國香織 『すきまのおともだちたち』 ※うろ覚え) --- 私の生まれ育った家は、来客の多い家だった。 父の師匠とそ…

2020/08/30

ここ2週間ほど、たのしむ、ということが出来なくなってしまっている。 たのしむのにはエネルギーが要るのだ。 なにごとも、自分からたのしもうとしないことには、本当にたのしくは感じないから。 こういうことは今までにもあって、 そのたび、何らかのきっか…

2020/08/29

料理に使った鍋を洗っていたら、 ふと、おままごとが大好きだった幼少期を思い出した。 幼稚園の教室でも、園庭のお砂場でも、家でも、 どこでだっておままごとをしていた。 おもちゃの茶碗に、お砂場の砂を入れて料理に見立て、 摘んできた葉をあしらったり…

2020/08/27

『 ふうせん が ふくらんだ。 ゆめも ふくらんだ。 ふうせん パンッ と われちゃった。 おきたら ゆめも われちゃった。 』 これは私が小学校低学年のときにつくった、詩の真似事みたいなもの。 たいした出来でもないけれど、なぜか今になっても覚えている。…

2020/08/24

人生において、かつて一瞬だけすれ違った人のことを、折に触れて思い出す。 ただ一度目が合っただけ、ただ一度言葉を交わしただけ。 でもその印象が、長く伸びる夕方の影のように、 いつまでも心にまとわりついている。 あのときの気持ちに名前をつけること…

2020/08/21

部屋の、模様替えをした。 数年前、映画「恋する惑星」を見てから、 部屋の模様替えをするときはいつも、The CranberriesのDreamsをかける。 「恋する惑星」で、フェイ・ウォンがトニー・レオンの家の中を 勝手に模様替えするシーンの曲だ。 (映画版は香港…

2020/08/19

ツクツクボウシが鳴かない夏だ。 私にとってミンミンゼミは盛夏の象徴、 ツクツクボウシは晩夏の象徴だ。 例年であれば、7月下旬から8月初旬のいちばん暑い時期にミンミンゼミが隆盛を極め、 それに重なるように、8月中旬頃からツクツクボウシがさかんに鳴き…

2020/08/15

答えよりも、問いのほうが好きだ。 それは例えば、印象派の絵画に似ている。 また例えば、未完の物語に似ている。 抽象が具象になる一歩手前、 すべての伏線が回収される一歩手前、 解決が与えられる、一歩手前。 その、一歩手前においてだけ、 私たちの脳内…

2020/08/13

久方ぶりに、手紙を書いた。 便箋というものが好きで、 気に入ったものを見かけるたびに購入していたら、けっこうな数になった。 手紙は、そう頻繁に書くものではないけれど、 だからこそ、これぞという便箋を選びたい。 手紙を送る相手の好みや、相手との関…

2020/08/11

食べ物のストック、という概念が好きだ。 冬眠、巣ごもりのために、いそいそと身の回りを整えていくような、 そんな幸福なイメージがあるからだ。 たとえば、箱買いしたアイスクリーム。 いただきものの、缶入りのビスケット。 たくさんつくって、冷凍してお…

2020/08/10

最近、街をよく散歩する。 近所に哲学の道みたいな場所があれば良いのだけれど、 そうもいかないので、たいていは住宅街を歩く。 日中は暑いので、晩ごはんを食べてから、9時とか10時とかの時間帯にでかける。 その時間帯の住宅街は、生活の気配に満ちている…

2020/08/08

明るいさよならを、言える人になりたい。 願わくば、お互いにありがとうと言って、笑顔のまま踵を返せるような。 悲しみに向き合いたくないあまりに、さよならを言えないままになることが とても、とてもよくあって、 それはたぶんある意味では、悲しみとす…

2020/08/06

カーテンコールが好きだ。 敵同士だった人たちが手に手をとり、 凶弾に倒れてしまった人が生き返る。 劇中の悲しみは乗り越えられ、憎しみは浄化され、 ひたひたとした満足感だけがそこに残る。 普段は物語の世界にばかり憧れて、自分の生きる現実世界に絶望…

2020/08/04

学生時代、何度か車で遠出をした。 たいていは旅行だ。数人の友人と出掛けることが多かった。 当時、音楽関係のサークルに所属していたので、 友人にも音楽好きが多く、車で遠出するときには、1人1枚ずつ お手製のコンピレーションアルバムを持参するのがお…