2020/08/04
学生時代、何度か車で遠出をした。
たいていは旅行だ。数人の友人と出掛けることが多かった。
当時、音楽関係のサークルに所属していたので、
友人にも音楽好きが多く、車で遠出するときには、1人1枚ずつ
お手製のコンピレーションアルバムを持参するのがお約束のようになっていた。
車の中でそのCDをかけて、バンドや曲を紹介し合うのだ。
旅行前日までじっくり時間をかけて、ああでもないこうでもないと
頭をひねって選曲し曲順を考えるわりに、
いざ旅行にでかけてしまうと、周りの景色や会話に夢中になって、
結局あまり聴いていない、なんてことも多かった。
それに音楽って、ひとりで聴いているときとみんなで聴いているときとでは、
なんだか全然、聴こえ方が違ったりするのだ。
あるとき、先述のサークル関係ではない、別の友人グループと車で出掛けた。
彼らがCDの代わりに車内に持ちこんだのは、なんと楽器そのものだった。
ボンゴやウクレレ、小ぶりの木琴。
彼らは、スピーカーから(この場とは無関係に演奏された)音楽を流すのではなく、
自らの手で、この場だけのための音楽を奏でようとしていた。
この場の景色、この場の会話、この場の空気に馴染む音楽を。
車窓から海を眺めながら、ボンゴをたたき、ウクレレを爪弾き、みんなで歌う。
それは、どんなすぐれた選曲のコンピレーションアルバムより、
心にグッとくる、音楽だった。
即席の楽隊が奏でる、即興の音楽。
みんなでいるときには、こういう音楽がいい。