2020/08/19

ツクツクボウシが鳴かない夏だ。

 

私にとってミンミンゼミは盛夏の象徴、

ツクツクボウシは晩夏の象徴だ。

例年であれば、7月下旬から8月初旬のいちばん暑い時期にミンミンゼミが隆盛を極め、

それに重なるように、8月中旬頃からツクツクボウシがさかんに鳴きはじめる。

ツクツクボウシの声がミンミンゼミの声をかき消すように響き始めると、

ああ、もうすぐ夏休みも終わりか、と憂いを帯びた気分になったものだ。

 

夏休みが終われば当然、学校に通う日常が戻ってくる。

学校になじめなかった私は、セミたちを心の中で応援していた。

セミが鳴いているうちは夏で、だからセミが鳴いているうちは学校に行かなくてすむ、

だから頑張れ頑張れ、なんとかして長く鳴いて、夏を終わらせないでくれ。

 

今から思えば滅茶苦茶な理論だし、

実際にはツクツクボウシは9月に入っても鳴いているのだけれど、

当時の私は、そういうものにしか縋れなかった。

 

大人になって、学校に行かなくてすむようになり、

夏休みというものもなくなったけれど、

それでも毎年夏は、セミの鳴き声に耳を澄ませては、しんみりしてしまう。

今鳴いているセミたちは、子どもだった頃の私の夏を少しだけ慰めてくれた、

彼らの子孫かもしれないのだし。

 

そんなわけで、今年もセミたちの鳴き声を聞きながら、日々を粛々と過ごしている。

しかし今年は、今日になってもまだミンミンゼミが鳴いていて、

ツクツクボウシの声はまったく聞こえてこない。

 

なんだか、いつまでも終わらない夏の中に閉じ込められたみたい。

子どもの頃の私が聞いたら、いったいどう思うかしら。