2020/09/13
最初の記憶は何ですか。
そんな質問を受けて、ふと考えこんでしまう。
最初の記憶。
そう言われて思い浮かぶのは、
当時住んでいた家の門前道路で、ひたすらぐるぐる回っている私。
どうにも奇妙な記憶で、
今後幾度も自分はこの一瞬を思い出すだろう、
などと予言めいたことを感じていたのを覚えている。
私はそのとき5歳だった。
「三丁目のおうち」と呼んでいた、懐かしい我が家。
そこに住んでいるのはもう私たちではなくなってしまったけれど、
その家も、ぐるぐる回っていた道路も、今もまだ健在なはずだ。
はずだ、と書いたのは、10歳で新しい家に引っ越してから、
一度もその家に行っていないからだ。
家の新しい持ち主と母が知り合いなので、その家がまだ健在だということだけは
なんとなく知っているけれど。
引っ越し先の新しい家、通称「二丁目のおうち」には、
10歳から19歳まで住んでいた。
だから、三丁目にも二丁目にも、だいたい同じだけの期間住んだことになる。
それでもやはり、「三丁目のおうち」は私にとって特別なようで、
自分の実家といえばその家しかないと思っていたし、今も思っている。
たぶん、一番輝かしい、子どもが子どもでいられる期間を、
そこで過ごしたからではないかと思う。
だから、まるで知らない家のような顔をしてすましている「実家」を見るのが、
どうしようもなく怖かったのだ。
それで、近くを通りかかっても、努めてそちらに足が向かないようにしていた。
けれども、私ももう、自分で家庭を持ち、自分たちの家を持つ身になった。
それで、ようやく吹っ切れたのかもしれない。
今度帰省したら、夫と一緒に、今の「三丁目のおうち」を見にいってみるつもりだ。
かつて私たちが愛した家は、いったいどんな顔をして、
今の私を出迎えてくれるだろうか。