2020/09/07

あのころのことに、ふと思いを馳せる。

窓ガラスにおでこと鼻をぴったりくっつけて、外を覗いた初雪の朝のこと。

庭に出したビニールプールで、犬と一緒にはしゃいだ夏の午後のこと。

漬け込みに一晩、焼き上げるのに数時間かかるチキンを一瞬でたいらげてしまった、

パーティの夜のこと。

 

いまだって、同じことはできる。

でも、その行為の前後にかかる手間を考えてしまうと、

一歩前のところで躊躇してしまうし、一歩踏み出せたとしても全力で楽しめない。

あの無垢で突き抜けた楽しさは、知恵の実を口にする前の特権だったのだろう。

 

その実をお腹の中におさめているからこそ見えるもの、

得られるものも、もちろんあるわけだけれど、

実を口にするタイミングは選びたかったなと、思ったりするのだ。

だってあの実は、かじった時の感触も味も、香りもなんにもなく、

ある日とつぜん、胃袋の中で存在を主張しはじめたのだ。

夜、私が寝ている間に、勝手に口の中に飛び込んだのかもしれない。

 

これだから夜は、油断ならない。