2020/07/13
高原の朝のような、涼やかな風が吹いている。
昨日は蒸す一日だったから、夏が避暑地ならぬ避暑日を用意してくれたのかしら。
こんな日には久方ぶりに、温かい紅茶をおいしくいただける。
高原、といえば。
9歳の夏休み、家族旅行で清里に出かけたことがあった。
宿泊先は、高原の中に立つ、コロニアル様式のかわいらしいペンション。
無口だけれど実はひょうきんな旦那さんと、やさしい笑顔が印象的な奥様の、
ご夫婦が経営していた。
自家製のアイスクリームが、信じられないくらいおいしかった。
とはいえ、小さいころに一度行ったきりなので、記憶が曖昧だ。
子どもの頃の思い出を、大人になってから思い返してみると、
実際に起こったことなのか、夢で見たことなのかが曖昧になることが、ままある。
あのかわいらしいおうちは、はたして実在のものだったのだろうか。
知りたいような、知りたくないような。
しかし我慢できなくなったので、調べてみた。
結論からいうと、あのペンションは実在して、
しかも、まだ同じ場所で宿を続けていらっしゃるようだった。
やっぱり夢じゃなかった、とはやる気持ちを抑えながら、
改めてホームページに載っている写真を見ると、
使い込んで飴色になった木製家具、足ふみオルガン、鋳物のクッキングストーブなどが目に入った。
私は今、アンティークの家具や食器の蒐集、古い日本家屋の修復などを行っている。
「いつごろから古いものが好きなんですか」とご質問いただくことも結構あるが、
そのたびに「明確なきっかけはなくて、気づいたらこうなっていたんです」
と答えてきた。
しかし今になってペンションの写真を見ていると、
図らずもここが、私の原点のひとつだったのかもしれない、と。
原点を再発見する旅がてら、一生にもう一度くらい、
遊びにいってみるのも良いかもしれない。